噛りながら話してゐる二人の青年がゐました。ひどく孤獨さうな樣子でしたが、私は早足で御神火茶屋にかけ上りラクダを頼みました。――こんなところで、ラクダなんぞに乘つたり、驢馬に乘つたりするのは嫌らひなのですが暮れかけてゐるので仕方なくラクダへ乘る。四人乘れるのですが、外輪山をつゝきつて一人が五拾錢です。ところで、此外輪山は風が強いので、外套がまるで吹きちぎられるやうでした。
 ――三原山の火口の話なのですが、あの山も、今では隨分底の方まで冷えて行つてゐると云ふ事です。飛び込んだとしても、途中の岩にミヂンとなつて死んでしまへれば兎に角、どこかの岩底に飛び降りて、死ねもしないで、ウロウロしてゐなければならないとなると、一寸考へただけでも悲慘でせう。息苦しくない程度の空氣が、隨分火口の底の方まであると云ふ事を何かの本でみましたが、途中の岩角なんかに、上に登る事も出來ず、只、餓死を待つばかりの自殺者が、ウロウロしてゐる姿を空想してみて下さい、心の中まで冷たくなる氣持です。燒けもしないで白骨になりかけたのなぞもあつたらなぞ、偶《ふ》とそんな事を考へると、私は山を振り返へつてみる勇氣もありませんでした
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