、そんなのも、ひどくナポリに似てゐる。ヴヱスビオの山の煙のやうに雄大でもないが、貧しいながらも、此岡田村から見る御神火は私の小ナポリです。

 これから下田です。
 船は、宿屋よりも居心地がよくて、門司と下關との連絡船によく似てゐます。大島の元村から二時間で下田の港です。晴天でしたので、下田の町をポツポツ歩きましたが、軒が底く、白い土塀の多い古風なところです。
 お吉が奉公してゐたと云ふ家も見ましたが、細い格子のはまつた、二階建てで倉なぞもありました。いまは空家なのか、人が住んでゐる樣子も見えません。港から、岬の裏がはの大浦の方に歩いてみました。よどむだやうな小さな河があつて、その河添ひには、簪のやうにきやしやな櫻の木が植つてもう花が散りかけてゐました。その河に添つて、なまめかしい格子の家が並んでゐて、夜になつたら、美しい女のひとがチラホラするのでせう、まことに情緒のある町です。
 大浦の海岸では、保養館と云ふ宿で休みました。伊勢海老と、あはびが中食に出たのですが、こゝでは自慢なのでせう。有島生馬氏が泊つてゐられたと云つて上さんが、宿の主の肖像なんぞを出して見せてくれました。――子供達
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