日も御飯を食べないので
とても寒くて
ホラ私の胃袋は鐘のやうに
ゴオンゴオンと鳴つてゐます。

火鉢に鍋をのせ
うどんの玉を入れて食べませう
外は風が寒むそうだが
すばらしい月夜です。

この白い糸のやうな湯気を見てゐると
私は赤ん坊のやうに楽しいんです。
童話も書きあがつてしまつたし
うどんもぐつぐつ煮へて来たし……。

一週間も前にさした枯々の水仙が
馬鹿に悲しい心情をそゝるのですが
明日の事を思ふとじつと涙をこらへて
私は白い手を見ました

あゝ昔私に恋文をくれた人もあつたつけ……。
[#改ページ]

 燃へろ!

燃へろ!
燃へろ!
それ火だ火の粉だ

憂鬱を燃やせ!
真実の心は火花だ心だ!
馬鹿にするな
馬鹿にするな
貧しくつても
生きるのだ!

大きな樹の上に止つて
私の子供のやうな心は
ねー狂人のやうにこんなに叫びたいのです。
[#改ページ]

 火花の鎖

大根畑が白く凍つてゐる朝
米をといでゐる私は
赤い肩掛けがほしくなりました
仄かに音もなく降る雪の中に
赤い肩掛けをして
恋人と旅に出たならば……。

私は顔をあかめて心のふるへをたゝみ
そつと涙ぐむのです。

此朝
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