蒼馬を見たり
蒼馬を見たり
林芙美子

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(例)ハラ/\
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 自序


あゝ二十五の女心の痛みかな!

細々と海の色透きて見ゆる
黍畑に立ちたり二十五の女は
玉蜀黍よ玉蜀黍!
かくばかり胸の痛むかな
廿五の女は海を眺めて
只呆然となり果てぬ。

一ツ二ツ三ツ四ツ
玉蜀黍の粒々は二十五の女の
侘しくも物ほしげなる片言なり
蒼い海風も
黄いろなる黍畑の風も
黒い土の吐息も
二十五の女心を濡らすかな。

海ぞひの黍畑に
何の願ひぞも
固き葉の颯々と吹き荒れて
二十五の女は
真実命を切りたき思ひなり
真実死にたき思ひなり。

延びあがり延びあがりたる
玉蜀黍は儚なや実が一ツ
こゝまでたどりつきたる
二十五の女の心は
真実男はゐらぬもの
そは悲しくむつかしき玩具ゆゑ
真実世帯に疲れる時
生きやうか死なう
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