ゆくと
街路樹は林立した帆柱のやうに
毎日毎日風の唄だ。
紫の羽織に黒いボアのうつるお嬢さん!
私はその羽織や肩掛けに熱い思ひをするのです。
美しい女
美しい街
お腹はこんなにからつぽなんです。
私は不思議でならない
働らいても働らいても御飯の食へない私と
美しい秋の服装と――
たつぷり栄養をふくんだ貴女の
頬つぺたのはり具合
貴女と私の間は何百里もあるんでせうかね――
つまらなくつて男を盗んだのです
そしてお酒に溺れたんですが
世間様は皆して
地べたへ叩きつけて
この私をふみたくつてしまふのです。
お嬢さん!
ますます貴女はお美しくサンゼンとしてゐます。
あゝこの寂しい酔ひどれ女は
血の涙でも流さねば狂人になつてしまふ
チクオンキの中にはいつて
吐唸りたくつても
冷たくて月のある夜は恥かしい
嘲笑したヨワミソの男や女達よ!
この酔ひどれ女の棺桶でもかつがして
林立した街の帆柱の下を
スツトトン
スツトトンでにぎはせてあげませう。
[#改ページ]
乗り出した船だけど
それはどろどろの街路であつた
こわれた自動車のやうに私はつゝ立つてゐる
今度こそ身売りをして金をこしらへ
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