に置忘れた
可愛い水夫の夢もあつたが
私のことづけは白い鴎に
―いゝ情人が出来ました

あゝ私はうらぶれた人魚
遠くい遠くい飛んだ鴎よ
かへつておいでヒーロヒロ
―やつぱり淋しく候
―悲しく候
―青い人魚は死んでしまひ候。
[#改ページ]

 雪によせる熱情

茫漠たる吹雪の野に
私は只一羽の荒鷲となつて
ゐつぱいの羽根
ゐつぱいの魂
せいゐつぱいの情熱を拡げて
ひと打ち!
ビユンと私は野を越へやう――

キリキリ キリキリ
美しい雪の砲丸
私は真赤な帽子をかぶつて
ゐつぱいの両手
ゐつぱいの心臓
せいゐつぱいの瞳を開いて
ころころ私は雪にまみれやう。

あの真蒼い雪!
雪の上からのし上がる断雲
あゝもれもれと上がる私の顔のスフインクス
野も山も雪も家も呑んでしまほう。

雪の上のスフインクスは
涙をふりちぎつて大空に息した
ゐつぱいの口
ゐつぱいの息
せいゐつぱいの胸をゆする。

ランマンと咲いた地球の上に
ランマンと飛ぶ雪の砲丸
さあゐつぱいの力だ
ゐつぱいに足をふまへて
私はせいゐつぱいに弓を張らう!
[#改ページ]

 酔ひどれ女

鉄くづのやうにさびた木の葉が
ハラ/\散つて
前へ 次へ
全28ページ中18ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング