会のセメントをザザザと崩す日を思へ!
大理石もドームも打破つてトンネルを造れ
海へ続くユカイなトンネルを造れ
海は波は
新しい芝居のやうに泡をたて
腰をゆり肩を怒らせ
胸を張り
真実切ないものを空へぶちまけてゐる。

汚れた土を崩す事は気安めではない
大きい冷い屋根を引つぺがへして
浪の泡沫をふりかけやうか!
それとも長い暗いトンネルの中へ
鎖の鍵を持つてゐるムカデを
トコロテンのやうに押し込んでやらうか!

奈落にひしめきあふ不幸な電気人形よ
波を叩いて飛ぶ荒鷲のツバサを見よ
海よ海!
海には自由で軽快な帆船がいつぱいだ。
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 情人

船の上から
一直線に飛びこんだ私――
上手に起きやうとすると
ふくらはぎに海鼠が這つて
私は恥かしくて
両手で乳房を抱きました。

波が荒くなつてくると
私は髪をほどいて
もうステバチになつたんです
ドンと突き当れば
ドンとはねつ返すパツシヨン
あゝ私は強い波の
打たれるやうな接吻を恋ひした。

ビロードのやうに青い波の上だよ
私は裸身を水にしぶかせて
只呆然と波に溺れたのです。

さあ私は人魚
抱きしめておくれ
私の新らしい恋人よ

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