々が
皆殺気立つて
糸巻きのやうに空つぽのトロツコがレールに浮いてゐた。
重たい荷を背負つて隧道を越すと
頬かぶりをした坑夫達が
『おい! カチユーシヤ早く帰らねえとあぶねえぞ!』
私は十二の少女
カチユーシヤと云はれた事は
お姫様と言われた事より嬉しかつた
『あんやん[#「あんやん」に傍点]しつかりやつておくれつ!』
7
純情な少女には
あの直情で明るく自由な坑夫達の顔から
正義の微笑を見逃しはしなかつた。
木賃宿へ帰つた私は
髪を二ツに分けてカチユーシヤの髪を結んでみた。
いとしのカチユーシヤよ!
農奴の娘カチユーシヤはあんなに不幸になつてしまつた。
吹雪、シベリヤ、監獄、火酒、ネフリユウドフ
だが何も知らない貧しい少女だつた私は
洋々たる望を抱いて野菜箱の玉葱のやうに
くりくり大きくそだつて行つた。
[#改ページ]
海の見へない街
凍つた空に響くのは
固い銅羅の音だ
街路樹が冬になると
人間の胃袋が汚れて来る。
すりきれた
すりきれた
都会の奈落にひしめきあふロボツト
ロボツトの足につないだプラチナの鎖は
金にあかした電流だ。
波の音が未来も過古もない荒んだ都
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