てみた。
「新聞で何か書いたようでしたが、ほんのそう云う事業に手助けをしているきりで、お困りのようでしたら、九段の婦人会の方へでもいらっして、仕事をなさってはいかがですか……」
 私は程よく埃《ほこり》のように外に出されてしまったけれど、――彼女が眉をさかだててなぜあの様な者を上へ上げましたと、いまごろは女中を叱っているであろう事をおもい浮べて、ツバキをひっかけてやりたいような気持ちだった。ヘエー何が慈善だよ、何が公共事業だよだ。夕方になると、朝から何も食べていない二人は、暗い部屋にうずくまって当《あて》のない原稿を書いた。
「ねえ、洋食を食べない?」
「ヘエ?」
「カレーライス、カツライス、それともビフテキ?」
「金があるのかい?」
「うん、だって背に腹はかえられないでしょう、だから晩に洋食を取れば、明日の朝までは金を取りにこないでしょう。」
 洋食をとって、初めて肉の匂いをかぎ、ずるずるした油をなめていると、めまいがしそうに嬉しくなってくる。一口位は残しておかなくちゃ変よ。腹が少し豊かになると、生きかえったように私達は私達の思想に青い芽を萌《も》やす。全く鼠も出ない有様なのだから仕
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