新版 放浪記
林芙美子

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【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)侘《わび》しき

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)氷|饅頭《まんじゅう》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
   (数字は、JIS X 0213の面区点番号、または底本のページと行数)
(例)※[#「穴かんむり/樔のつくり」、第4水準2−83−21]

 [#…]:返り点
 (例)楊柳斉作[#レ]花
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     第一部

[#改ページ]

     放浪記以前

 私は北九州の或る小学校で、こんな歌を習った事があった。

[#ここから2字下げ]
更けゆく秋の夜 旅の空の
侘《わび》しき思いに 一人なやむ
恋いしや古里 なつかし父母
[#ここで字下げ終わり]

 私は宿命的に放浪者である。私は古里を持たない。父は四国の伊予の人間で、太物《ふともの》の行商人であった。母は、九州の桜島の温泉宿の娘である。母は他国者と一緒になったと云うので、鹿児島を追放されて父と落ちつき場所を求めたところは、山口県の下関と云う処《ところ》であった。私が生れたのはその下関の町であ
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