覗いて通った。

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隣人とか
肉親とか
恋人とか
それが何であろう
生活の中の食うと云う事が満足でなかったら
描いた愛らしい花はしぼんでしまう
快活に働きたいと思っても
悪口雑言の中に
私はいじらしい程小さくしゃがんでいる。

両手を高くさしあげてもみるが
こんなにも可愛い女を裏切って行く人間ばかりなのか
いつまでも人形を抱いて沈黙《だま》っている私ではない
お腹がすいても
職がなくっても
ウオオ! と叫んではならないのですよ
幸福な方が眉をおひそめになる。

血をふいて悶死《もんし》したって
ビクともする大地ではないのです
陳列箱に
ふかしたてのパンがあるけれど
私の知らない世間は何とまあ
ピヤノのように軽やかに美しいのでしょう。

そこで初めて
神様コンチクショウと呶鳴りたくなります。
[#ここで字下げ終わり]

 長いあいだ電車にゆられていると、私は又何の慰めもない家へ帰らなければならないのがつまらなくなってきた。詩を書く事がたった一つのよき慰めなり。夜、飯田さんとたい子さんが唄いながら遊びに見えた。

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俺んとこの
あの美しい
ケッコ
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