……」
 これ位白ばくれておかなければ、今夜こそどうにか爆発しそうで恐ろしかった。壁に背を凭せて、かの人はじっと私の顔を凝視《みつ》めて来た。私はこの男が好きで好きでたまらなくなりそうに思えて困ってしまう。だけど、私はもう色々なものにこりこりしているのだ。私は温《おと》なしく両手を机の上にのせて、灯の光りに眼を走らせていた。私の両の手先きが小さく、慄えている。一本の棒を二人で一生懸命に押しあっている気持ちなり。
「貴女は私を嬲《なぶ》っているんじゃないんですか?」
「どうして?」
 何と云う間の抜けた受太刀だろう。私の生々しい感傷の中へ巻き込まれていらっしゃるきりではありませんか……私は口の内につぶやきながら、このひとをこのままこさせなくするのも一寸淋しい気がしていた。ああ友達が欲しい。こうした優しさを持ったお友達が欲しいのだけれども……私は何時《いつ》か涙があふれていた。
 いっその事、ひと思いに死にたいとも思う。かの人は私を睨《にら》み殺すのかも知れない。生唾が舌の上を走った。私は自分がみじめに思えて仕方がなかった。別れた男との幾月かを送ったこの部屋の中に、色々な夢がまだ泳いでいて
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