がした職業は牛屋の女中さん。「ロースあおり一丁願いますッ。」梯子《はしご》段をトントンと上って行くと、しみじみと美しい歌がうたいたくなってくる。広間に群れたどの顔も面白いフイルムのようだ。肉皿を持って、梯子段を上ったり降りたりして、私の前帯の中も、それに並行して少しずつお金でふくらんで来る。どこを貧乏風が吹くかと、部屋の中は甘味《おい》しそうな肉の煮える匂いでいっぱいだ。だけど、上ったり降りたりで、私はいっぺんにへこたれ[#「へこたれ」に傍点]てしまった。「二三日すると、すぐ馴れてしまうわ。」女中頭の髷《まげ》に結ったお杉さんが、物かげで腰を叩いている私を見て慰めてくれたりした。
十二時になっても、この店は素晴らしい繁昌ぶりで、私は家へ帰るのに気が気ではなかった。私とお満さんをのぞいては、皆住み込みのひとなので、平気で残っていて客にたかっては色々なものをねだっている。
「たあさん、私水菓子ね……」
「あら私かもなん[#「かもなん」に傍点]よ……」
まるで野生の集りだ、笑っては食い、笑っては食い、無限に時間がつぶれて行きそうで私は焦らずにはいられなかった。私がやっと店を出た時は、も
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