たら当分は長生きが出来る。
(ああ浮世は辛うござりまする。)
こうして寝ているところは円満な御夫婦である。冷たい接吻はまっぴらなのよ。あなたの体臭は、七年も連れそった女房や、若い女優の匂いでいっぱいだ。あなたはそんな女の情慾を抱いて、お勤めに私の首に手を巻いている。
ああ淫売婦にでもなった方がどんなにか気づかれがなくて、どんなにいいか知れやしない。私は飛びおきると男の枕を蹴《け》ってやった。嘘つきメ! 男は炭団《たどん》のようにコナゴナに崩れていった。ランマンと花の咲き乱れた四月の明るい空よ、地球の外には、颯々《さつさつ》として熱風が吹きこぼれて、オーイオーイと見えないよび声が四月の空に弾《はじ》けている。飛び出してお出でよッ! 誰も知らない処《ところ》で働きましょう。茫々とした霞《かすみ》の中に私は神様の手を見た。真黒い神様の腕を見た。
(四月×日)
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一度はきやすめ二度は嘘
三度のよもやにひかされて……
憎らしい私の煩悩《ぼんのう》よ、私は女でございました。やっぱり切ない涙にくれまする。
鶏の生胆《いきぎも》に
花火が散って夜が来た
東西! 東西!
そ
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