程泊めて下さいね。」まるで綿でも詰っているかの様に大きな髷《まげ》なしの髪をセルロイドの櫛《くし》でときつけながら、「女ばかりもいいものね……時ちゃんにこの間逢ってよ。どうも思わしくないから、又カフエーへ逆もどりしようかって云ってたわ。」お芳さんが米も煮えているカレーも買ってくれたんだと云って、十子がかいがいしく茶ブ台に茶碗をそろえていた。久し振りに明るい気持ちになる。敷蒲団がせまいので、昼夜帯《ちゅうやおび》をそばに敷いて、私が真中、三人並んで寝る事にした。何だか三畳の部屋いっぱいが女の息ではち切れそうな思いだった。高いところからおっこちるような夢ばかり見るなり。

(二月×日)
 新聞社に原稿をあずけて帰って来ると、ハガキが一枚来ていた。今夜来ると云う、あの男からの速達だった。十ちゃんも芳ちゃんも仕事を見つけに行ったのか、部屋の中は火が消えたように淋しかった。あんな男に金を貸してくれなんて言えたものではないではないか……、十ちゃんに相談をしてみようかと思う……、妙に胸がさわがしくなってきた。あのヴァニティケースだってほてい屋の開業日だって云うので、物好きに買って来た何割引かのものな
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