った。歩けるだけ歩きましょう。銀座裏の奴寿司で腹が出来ると、黒白の幕を張った街並を足をそろえて二人は歩いていた。朝でも夜でも牢屋《ろうや》はくらい、いつでも鬼メが窓からのぞく。二人は日本橋の上に来ると、子供らしく欄干に手をのせて、飄々《ひょうひょう》と飛んでいる白い鴎《かもめ》を見降ろしていた。

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一種のコウフンは私達には薬かも知れない
二人は幼稚園の子供のように
足並をそろえて街の片隅を歩いていた。
同じような運命を持った女が
同じように眼と眼とみあわせて淋しく笑ったのです。
なにくそ!
笑え! 笑え! 笑え!
たった二人の女が笑ったとて
つれない世間に遠慮は無用だ
私達も街の人達に負けないで
国へのお歳暮《せいぼ》をしましょう。

鯛《たい》はいいな
甘い匂いが嬉しいのです
私の古里は遠い四国の海辺
そこには父もあり母もあり
家も垣根も井戸も樹木も

ねえ、小僧さん!
お江戸日本橋のマークのはいった
大きな広告を張って下さい
嬉しさをもたない父母が
どんなに喜んで遠い近所に吹《ふい》ちょうして歩く事でしょう
――娘があなた、お江戸の日本橋から買って送って呉《
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