く》れましたが、まあ一ツお上りなして
ハイ……。

信州の山深い古里を持つかの女も
茶色のマントをふくらませ
いつもの白い歯で叫んだのです。
――明日は明日の風が吹くから、ありったけの銭で買って送りましょう……。
小僧さんの持っている木箱には
さつまあげ、鮭《さけ》のごまふり、鯛の飴干《あめぼ》し

二人は同じような笑いを感受しあって
日本橋に立ちました。

日本橋! 日本橋!
日本橋はよいところ
白い鴎が飛んでいた。

二人はなぜか淋しく手を握りあって歩いたのです。
ガラスのように固い空気なんて突き破って行こう
二人はどん底の唄をうたいながら
気ぜわしい街ではじけるように笑いあいました。
[#ここで字下げ終わり]

 私はなつかしい木箱の匂いを胸に抱いて、国へのお歳暮を愉しむ思いだった。

(十二月×日)
「今夜は、庄野さんが遊びに来てよ、ひょっとすると、貴女の詩集位は出してくれるかもわからないわね。新聞をやっているひとの息子ですってよ……」
 たいさんがそんなことを云った。たいさんと二人で夕飯を食べ終ると、二人は隣の部屋の、軍人上りの株屋さんだと云う、子持ちの夫婦者のところへまねか
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