白い腕をニュッと出すと、カーテンをめくって、陽の光りを見上げた。――梯子段を上って来る音がしている。たい子さんは無意識に、手を引っこめると、
「寝たふりをしてましょう、うるさいから。」と云った。
 私とたいさんは抱きあって寝たふりをしていた。やがて襖《ふすま》があくと、寝ているの? と呼びかけながら山本さんはいって来る。山本さんが私達の枕元になれなれしく坐ったので、私は一寸不快になる。しかたなく目をさました。たい子さんは、
「こんなに朝早くから来てまだ寝てるじゃありませんか。」
「でも勤め人は、朝か夜かでなきゃあ来られないよ。」
 私はじっと目をとじていた。どうしたらいいのか、たいさんのやり方も手ぬるいと思った。厭なら厭なのだと、はっきりことわればいいのだ。

 今日から街はりょうあんである。昼からたい子さんと二人で銀座の方へ行ってみた。
「私はね、原稿を書いて、生活費位は出来るから、うるさいあそこを引きはらって、郊外に住みたいと思っているのよ……」
 たいさんは茶色のマントをふくらませて、電気スタンドの美しいのをショーウインドウに眺めながら、そのスタンドを買うのが唯一の理想のように云
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