ったのはカフエー世界と云う家だった。
「どっかへ引っ越す時は知らしてね、たい子さんによろしく云ってね。」
 時ちゃんはほんとうに可愛い娘だ。野性的で、行儀作法は知らないけれども、いいところのある女なり。
「久し振りで、二人で、別れのお酒もりでもしましょうか……」
「おごってくれる?」
「体を大事にして、にくまれないようにね。」
 浅草の都寿司にはいると、お酒を一本つけてもらって、私達はいい気持ちに横ずわりになった。雨がひどいので、お客も少いし、バラック建てだけれども、落ちついたいい家だった。
「一生懸命勉強してね。」
「当分会えないのね時ちゃんとは……私、もう一本呑みたい。」
 時ちゃんはうれしそうに手を鳴らして女中を呼んだ。やがて、時ちゃんをカフエーに置いて帰ると、たい子さんは一生懸命何か書きものをしていた。九時頃山本さんみえる。
 私は一人で寝床を敷いて、たい子さんより先に寝ついた。

(十二月×日)
 フッと眼を覚ますと、せまい蒲団なので、私はたい子さんと抱きあってねむっていた。二人とも笑いながら背中をむけあう。
「起きなさい。」
「私いくらでも眠りたいのよ……」
 たい子さんは
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