た。お母さんは茣蓙《ござ》をまとめていた。いつものように、二人で荷物を背負って駅へ行くと、花見帰りの金魚のようなお嬢さんや、紳士達が、夜の駅にあふれて、あっちにもこっちにも藻《も》のようにただよい仲々|賑《にぎや》かだ。二人は人を押しわけて電車へ乗った。雨が土砂《どしゃ》降りだ。いい気味だ。もっと降れ、もっと降れ、花がみんな散ってしまうといい。暗い窓に頬をよせて外を見ていると、お母さんがしょんぼりと子供のようにフラフラして立っているのが硝子窓に写っている。
電車の中まで意地悪がそろっているものだ。
九州からの音信なし。
(四月×日)
雨にあたって、お母さんが風邪を引いたので一人で夜店を出しに行く。本屋にはインキの新らしい本が沢山店頭に並んでいる。何とかして買いたいものだと思う。泥濘《ぬかるみ》にて道悪し、道玄坂はアンコを流したような鋪道だ。一日休むと、雨の続いた日が困るので、我慢して店を出すことにする。色のベタベタにじんでいるような街路には、私と護謨靴《ごむぐつ》屋さんの店きりだ。女達が私の顔を見てクスクス笑って通って行く。頬紅が沢山ついているのかしら、それとも髪がおかしいのか
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