さんの唄ではないが、たったかたのただろう。
(四月×日)
水の流れのような、薄いショールを、街を歩く娘さん達がしている。一つあんなのを欲しいものだ。洋品店の四月の窓飾りは、金と銀と桜の花で目がくらむなり。
[#ここから2字下げ]
空に拡がった桜の枝に
うっすらと血の色が染まると
ほら枝の先から花色の糸がさがって
情熱のくじびき
食えなくてボードビルへ飛び込んで
裸で踊った踊り子があったとしても
それは桜の罪ではない。
ひとすじの情
ふたすじの義理
ランマンと咲いた青空の桜に
生きとし生ける
あらゆる女の
裸の唇を
するすると奇妙な糸がたぐって行きます。
貧しい娘さん達は
夜になると
果物のように唇を
大空へ投げるのですってさ
青空を色どる桃色桜は
こうしたカレンな女の
仕方のないくちづけ[#「くちづけ」に傍点]なのですよ
そっぽをむいた唇の跡なのですよ。
[#ここで字下げ終わり]
ショールを買う金を貯《た》めることを考えたら、仲々大変なことなので割引の映画を見に行ってしまった。フイルムは鉄路の白バラ、少しも面白くなし。途中雨が降り出したので、小屋から飛び出して店に行っ
前へ
次へ
全531ページ中29ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング