粉をふいて光っていた。
「ホラ! お船だよ、よく見ておおき、あれで外国へ行くんだよ。あれは起重機ね、荷物が空へ上って行ったろう。」
 お君さんの説明をきいて、板チョコを頬ばりながら、子供はかすんだような嬉しい眼をして海を見ている。桟橋から下を見ると深い水の色がきれいで、ずるずると足を引っぱられそうだった。波止場には煙草屋だの、両替店、待合所、なんかが並んでいる。
「母さん、僕、水のみたい。」
 ひざ小僧を出したお君さんの子供が、白い待合所の水道の方へ走って行くと、お君さんは袂《たもと》からハンカチを出して子供のそばへ歩いて行く。
「さあ、これでお顔をおふきなさい。」
 ああ何と云う美しい風景だろう、その美しい母子風景が、思い思いな苦しみに打ちのめされてはきりっと立ちあがっては前進してゆくのだ。少年が母をたずねて、この浜辺までひとりで辿《たど》って来た情熱を考えると、泣き出したいだろうお君さんの気持ちが胸に響くなり。
「あの子と一緒に間借りでもしようかとも思うのよ、でも折角、父親がいて離すのもいけないと思って我慢はしてるのだけれど、私、働き死にをしに生れて来たようで、厭《いや》になる時が
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