あるわよ。」
「ね、小母さん! ホテルって何?」
フッと見ると波止場のそばの橋の横に、何時か見たホテルと云う白い文字が見えた。
「旅をする人が泊るところよ。」
「そう……」
「ね、坊や! 皆うちにまだいるの?」
「うん、お父さん家にいるよ、お婆ちゃんも、小母ちゃんも銀座の方にこの頃通って、とても夜おそいの、だから僕だの父ちゃんが、かわりばんこに駅へむかいに行くんだよ……」
お君さんはおこったように沈黙って海の方を見ていた。
昼は伊勢佐木町に出て、三人で支那|蕎麦《そば》を食べた。
「ね、あんた、私、写真を取りたいのよ、一緒に写ってくれない。」
「私もそう思ってたの、いつまた離ればなれになるかも判らないんですもの、丁度いいわ、坊やも一緒に取りましょう。」
支那の軍人の制服のような感じの電車に乗って、浜近い写真館に行った。
「三人で取ると、誰かが死ぬんだって、だから犬ころでもいいから借りましょうよ。」
お君さんが、不恰好なはり子の犬をひざに抱いて、坊やと私とが立っている姿を撮ってもらう。バックは、波止場の桟橋、林立した古風な帆柱が見えます。
「坊や! 今日は母ちゃんとこへ寝んね
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