いに円くかしこまって返事をしていた。
「貴女も、芝居をなすったそうですが、芝居の方を少し手伝って戴けませんか、女優が足りなくって弱っているんです。」
「女優なんて、とても柄じゃアありませんよ。自分だけの事でもやっと生きてますのに、舞台に立つなンて私にはメンドクサクてとても出来ません。」
「仲々貴女は面白い事を言いますね。」
「そうですかね。」
「これから、しょっちゅう遊びに来させてもらいます。いいですか。」
十七八の娘って、どうしてこうシンビ眼がないのだろう。きたない男の前で、ベニはクルクルした眼をして沈黙っているのだ。夜、ベニは私の部屋に泊ると云う、パパは帰って来ない。あまり淋しいので、チエホフの「かもめ」を読んだ……。
ベニは寝床の中から「面白いわね。」と云っている。
「自分で後悔しなきゃ、何やってもいいけれど、取るにたらないような感傷に溺《おぼ》れて、取りかえしのつかない事になるのは厭ね、ベニちゃんは、とても生一本で面白い人だけれど、案外貴女の生一本は内べんけいじゃなかったの、色んな事に目が肥えるまでは用心はした方がいいと思ってよ。」
彼女は薄っすらと涙を浮べて、まぶしそう
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