セン、タノシミニ、マッテイナサイ――母よりの手紙。
せいいっぱい声をはりあげて、小学生のような気持ちで本が読みたい。
ハト、マメ、コマ、タノシミニマッテイナサイか!
郵便局から帰って来ると、お隣のベニの部屋には刑事が二人も来ていて何か探していた。窓を開けると、三月の陽を浴びて、画学生達が相撲を取ったり、壁に凭《もた》れたり、あんなに長閑《のどか》に暮らせたら愉しいだろう、私も絵を描いた事がありますよ、ホラ! ゴオガンだの、ディフィだの、好きなのですけれど、重苦しくなる時があります。ピカソに、マチイス、この人達の絵を見ていると、生きていたいと思います。
「そこのアパートに空間はありませんか?」
新鮮な朗かな青年達の笑い声がはじけると、一せいに男の眼が私を見上げた。その眼には、空や、山や海や、旅愁が、キラキラ水っぽく光って美しかった。
「二間あいてるんですか!」
私はベニの真似をして二本の指を出して見せた。ベニの部屋では、何か家宅捜索されているらしい。ビール箱のベッドを動かしている音がしている。
焦心。女は辛し。生きるは辛し。
*
(三月×日)
階下の台所
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