た。
「実はね、階下にいる女達は、皆素性が悪くて、子供でも産んでしまえば、それっきり逃げ出しそうなのばかりなんですよ。だから今日からでも、私の留守居をしてもらいたいんですが御都合いかが?」
あぶらのむちむちして白い柔かい手を頬に当てて、私を見ているこの女の眼には、何かキラキラした冷たさがあった。話ぶりはいかにも親しそうにしていて、眼は遠くの方を見ている。そのはるかなものを見ている彼女の眼には空もなければ山も海も、まして人間の旅愁なんて何もない。支那人形の眼のような、冷々と底知れない野心が光っていた。
「ええ今日からお手伝いをしてもよろしゅうございますわ。」
昼。
黒いボアに頬を埋めて女主人が出て行った。小女が台所で玉葱《たまねぎ》を油でいためている。
「一寸! 厭になっちゃうね、又玉葱にしょっぺ汁かい?」
「だって、これだけしか当てがって行かねえんだもの!……」
「へん! 毎日五十銭ずつ取ってて、まるで犬ころとまちがえてるよ。」
ジロジロ睨《にら》みあっている瞳《ひとみ》を冷笑にかえると、彼女達は煙草をくゆらしながら、「助手さん! 寒いから汚ないでしょうけど、ここへ来て当りま
前へ
次へ
全531ページ中216ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング