いいと云っていた。「あんたは、ほんまによか生れつきな」母にこう云われると、指の無い淫売婦は、
「小母っさんまで、そぎゃん思うとんなはると……」彼女は窓から何か投げては淋しそうに笑っていた。二十五だと云っていたが、労働者上りらしいプチプチした若さを持っていた。
十一月の声のかかる時であった。
黒崎からの帰り道、父と母と私は、大声で話しながら、軽い荷車を引いて、暗い遠賀川の堤防を歩いていた。
「お母《っか》さんも、お前も車へ乗れや、まだまだ遠いけに、歩くのはしんどい[#「しんどい」に傍点]ぞ……」
母と私は、荷車の上に乗っかると、父は元気のいい声で唄いながら私達を引いて歩いた。
秋になると、星が幾つも流れて行く。もうじき街の入口である。後の方から、「おっさんよっ!」と呼ぶ声がした。渡り歩きの坑夫が呼んでいるらしかった。父は荷車を止めて「何ぞ!」と呼応した。二人の坑夫が這いながらついて来た。二日も食わないのだと云う。逃げて来たのかと父が聞いていた。二人共鮮人であった。折尾まで行くのだから、金を貸してくれと何度も頭をさげた。父は沈黙《だま》って五十銭銀貨を二枚出すと、一人ずつに握らせ
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