った。ストライキ、さりとは辛いね。私はこんな唄も覚えた。炭坑のストライキは、始終の事で坑夫達はさっさと他の炭坑へ流れて行くのだそうだ。そのたびに、町の商人との取引は抹殺《まっさつ》されてしまうので、めったに坑夫達には品物を貸して帰れなかった。それでも坑夫相手の商売は、てっとり[#「てっとり」に傍点]早くてユカイ[#「ユカイ」に傍点]だと商人達は云っていた。
「あんたも、四十過ぎとんなはっとじゃけん、少しは身を入れてくれんな、仕様がなかもんなァた……」
私は豆ランプの灯のかげで、一生懸命探偵小説のジゴマ[#「ジゴマ」に傍点]を読んでいた。裾にさしあって寝ている母が父に何時《いつ》もこうつぶやいていた。外はながい雨である。
「一軒、家ちゅうもんを、定めんとあんた、こぎゃん時に困るけんな。」
「ほんにヤカマシかな。」
父が小声で呶鳴《どな》ると、あとは又雨の音だった。――そのころ、指の無い淫売婦だけは、いつも元気で酒を呑んでいた。
「戦争でも始まるとよかな。」
この淫売婦の持論はいつも戦争の話だった。この世の中が、ひっくりかえるようになるといいと云った。炭坑にうんと金が流れて来ると
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