してしまいました。灰色の鉄門を這入《はい》ると、古い木造建ての建物があるのですけれど、正面の広い部屋には教誨師の方が沢山いられるようでした。─看守長の須田安太郎氏の御案内で、やがてわたしは二、三人の女の教誨師の方たちと、女囚の生活をみてまわったのですけれど、ここでもわたしは駅の前で眼をまぶしくした、あの太陽の白い反射をふっと獄窓《ごくそう》のなかに眺めることが出来たのです。お陽《ひ》さんが流れるように射しこんでいます。わたしは溢《あふ》れるような自然の愛情を感ぜずにはいられませんでした。
囚房の建物の入口は厚い板戸になっていて、大きな南京錠《なんきんじょう》がかかっています。なかへ這入ると、広い廊下を真中にして、左右二列に太い格子のはまった小さい独房《どくぼう》の部屋々々があって、わたしは何だかそれらの部屋々々をカナリヤ巣をみているようだとおもいました。どの部屋にも割合よく陽があたっていて、廊下より一段高くなっている房のなかは、どの部屋も畳敷《たたみじ》きで、三畳ばかりの部屋の隅《すみ》の小さい戸棚には、土瓶《どびん》だの茶碗だの、書籍なんかが置いてありました。如何《いか》にも女囚の
前へ
次へ
全18ページ中3ページ目
小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ
登録
ご利用方法
ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング