るのです、こうしたほのぼのとした景色から長い間別離されてしまって、ある運命の摂理のなかにいる女囚のひとたちのことを、わたしはどんな風にみればよいのかと、そんなことばかり不安に考えていました。
 栃木の町には朝十一時頃着きました。
 駅へは教誨師《きょうかいし》の方だと云う若い女のひとがわたしたちを迎えに来ていて下さったのですが、この方から貰った名刺には、栃木刑務所勤務、教誨師、大西ヤスエと書いてありました。こんな若いひとが教誨なさるのかと、わたしはちょっと明るい気持ちで、お迎えの自動車に乗ったのですけれど、自動車にゆられながらも、わたしは何か自分自身にも頼りないものを感じているのです。
 白く反射した明るい栃木の町は、たいへん素朴な町におもえました。宿屋だの、バスの発着所だの、小さな飲食店だの、自働電話だの、わたしは自動車の窓から、これらの町の景色を眺めていましたが、案外なことには、駅から刑務所までは五分とかからないところにあって、刑務所の玄関は、まるで明治のころの弁護士の家でもみるようです。いわゆる刑務所の概念をもってきたわたしには、意外にもなごやかな門構えだったのに吃驚《びっくり》
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