新生の門
――栃木の女囚刑務所を訪ねて
林芙美子
−−
【テキスト中に現れる記号について】
《》:ルビ
(例)呆《ぼ》んやり
|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)虫|除《よ》け
[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)のし[#「のし」に傍点]を
−−
わたしは刑務所を見にゆくと云うことは初めてのことです。早い朝の汽車のなかで、わたしは呆《ぼ》んやり色々のことを考えていました。
この刑務所をみにゆくと云うことは、本当は一ヶ月前からたのまれていたのですけれど、何だか自分の気持ちのなかに躊躇《ちゅうちょ》するものがあって、のびのびに今日まで待ってもらっていたのです。
朝の汽車はたいへん爽《さわや》かに走っています。野も山も鮮やかな緑に萌《も》えたって、つつじの花の色も旅を誘うように紅《あか》い色をしていました。わたしは、その一瞬の飛んでゆく景色にみとれながら、女囚のひとたちをみにゆく自分の気持ちを何だか残酷なものにおもいはじめているのです。わたし自身、人間的な弱点をたくさん持っていますせいか、ほんとうはこうした刑務所見学なんか困った気持ちにな
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