《は》っているひとたちのなかに、眼鏡《めがね》をかけた赤い着物のおばあさんもいました。
 のし[#「のし」に傍点]を張っている人たち、軍需品だと云う白い小さい布にミシンをあてている人たち、どのひとも、罪を犯してここへ来ているひととはみえない、なごやかな表情ばかりです。
 罪とは何なのだろうとおもえるような気がしてくるそんな明るい部屋のなかでした。この、栃木の女囚の刑務所は、男のひとの参観をゆるさないのだそうで、どこもここも文字通りの女護ヶ島《にょごがしま》なのです。明るい庭さきでは、洗い張り作業をしているひとたちもいました。――昔、何かで読んだ本に、刑務所の食事のことがありましたけれど、菜っぱのことを鳥またぎと云い、昆布のことをどぶ板と云うのだそうで、鳥またぎは鳥もまたいで通るような菜っぱの意味だそうですが、この刑務所はどんな食事をするのかと、わたしはたいへん興味がありました。
 やがて炊事場もみせて戴き、これが今日の食事だと云う食卓もみましたが、やっぱり、何と云っても異常な場所だと云う気持ちだけは感じました。筒型にかためられた茶色の御飯と、味噌汁のようなものと胡麻塩《ごましお》、そん
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