、中味が銅貨ばかりである事を知っている私は、何としても引込みがつかなく白状していった。
「割ってもいいのよ、だけれど……本当はもう銅貨ばかりになっていますよ」
「銅貨だって金だよ、少し重いから弐参拾銭《にさんじっせん》はあるだろう」
この男は、精神不感性ででもあるのかも知れない。風が吹《ふ》いたほどにも眼《め》の色を動かさないで、茶を呑《の》んでいた。
「金と云うものは溜《たま》らぬものさ、――ああとうとう雨だぜ、オイ、弱ったね」
私は元気よく、柱へ地獄壺を打ちつけた。
ひめくり[#「ひめくり」に傍点]は六月十五日だ。
大安で、結婚旅立ちにいい日とある。
午後から雷鳴《らいめい》が激《はげ》しく、雹《ひょう》のような雨さえ降って来た。
山国の産のせいであろう、まるで森林のように毛深い脚《あし》を出して、与一は忙《いそ》がしく荷造りを始めた。私はひどく楽しかった。男が力いっぱい荷造りをしている姿を見ると、いつも自分で行李《こうり》を締《し》めていた一人の時の味気《あじけ》なさが思い出されてきて、「とにかく二人で長くやって行きたい」とこんなところで、――妙《みょう》にあまく[
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