清貧の書
林芙美子

−−
【テキスト中に現れる記号について】

《》:ルビ
(例)云《い》う

|:ルビの付く文字列の始まりを特定する記号
(例)家族|達《たち》

[#]:入力者注 主に外字の説明や、傍点の位置の指定
(例)[#ここから1字下げ]
−−

     一

 私はもう長い間、一人で住みたいと云《い》う事を願って暮《くら》した。古里も、古里の家族|達《たち》の事も忘れ果てて今なお私の戸籍《こせき》の上は、真白いままで遠い肉親の記憶《きおく》の中から薄《うす》れかけようとしている。
 ただひとり母だけは、跌《つま》ずき勝ちな私に度々手紙をくれて叱《しか》って云う事は、――

[#ここから1字下げ]
おまえは、おかあさんでも、おとこうん[#「おとこうん」に傍点]がわるうて、くろうしていると、ふてくされてみえるが、よう、むねにてをあててかんがえてみい。しっかりものじゃ、ゆうて、おまえを、しんようしていても、そうそう、おとこさん[#「おとこさん」に傍点]のなまえがちごうては、わしもくるしいけに、さっち五円おくってくれとあったが、ばばさがしんで、そうれん[#「そうれん」に傍点]も
次へ
全43ページ中1ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング