だされんのを、しってであろう。あんなひとじゃけに、おとうさんも、ほんのこて、しんぼうしなはって、このごろは、めしのうえに、しょおゆうかけた、べんとうだけもって、かいへいだんに、せきたんはこびにいっておんなはる、五円なおくれんけん、二円ばいれとく、しんぼうしなはい。てがみかくのも、いちんちがかりで、あたまがいとうなる。かえろうごとあったら、二人でもどんなさい。
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[#地から3字上げ]はは。

 ひなたくさい母の手紙を取り出しては、泪《なみだ》をじくじくこぼし、「誰《だれ》がかえってやるもンか、田舎《いなか》へ帰っても飯が満足に食えんのに……今に見い」私は母の手紙の中の、義父が醤油《しょうゆ》をかけた弁当を持って毎日海兵団へ働きに行っていると云う事が、一番胸にこたえた。――もう東京に来て四年にもなる。さして遠い過去ではない。
 私は、その四年の間に三人の男の妻となった。いまの、その三人目の男は、私の気質から云えばひどく正反対で、平凡《へいぼん》で誇張《こちょう》のない男であった。たとえて云えば、「また引越《ひっこ》しをされたようですが、今度は、淋《さび》しいところら
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