しいですね」このように、誰かが私達に聞いてくれるとすると、私はいつものように楽《たの》し気《げ》に「ええこんなに、そう、何千株と躑躅《つつじ》の植っているお邸《やしき》のようなところです」と、私は両手を拡《ひろ》げて、何千株の躑躅がいかに美しいかと云う事を表現するのに苦心をする。それであるのに、三人目の男はとんでもなく白気《しらけ》きった顔つきで、「いや二百株ばかり、それもごくありふれた、種類の悪い躑躅が植えてある荒地《あれち》のような家敷跡《やしきあと》ですよ」という。で、私は度々|引込《ひっこ》みのならない恥《は》ずかしい思いをした。それで、まあ二人にでもなったならば思いきり立腹している風なところを見せようと考えていたのだけれど、――私達は一緒《いっしょ》になって間もなかったし、多少の遠慮《えんりょ》が私をたしなみ[#「たしなみ」に傍点]深くさせたのであろうか、その男の白々《しらじら》とした物云いを、私はいつも沈黙《だま》って、わざわざ報いるような事もしなかった。
 もともと、二人もの男の妻になった過去を持っていて、――私はかつての男たちの性根を、何と云っても今だに煤《すす》けた標
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