本のように、もうひとつ[#「ひとつ」に傍点]の記憶の埒《らち》内に固く保存しているので、今更《いまさら》「何《なん》ぞかぞ」と云い合いする事は大変|面倒《めんどう》な事でもあった。
二
二人目の男が、私を三人目の小松与一《こまつよいち》に結びつけたについては――
[#ここから2字下げ]
お前を打擲《ちょうちゃく》すると
初々と米を炊《と》ぐような骨の音がする
とぼしい財布の中には支那《しな》の銅貨《ドンペ》が一ツ
叩《たた》くに都合《つごう》のよい笞《むち》だ
骨も身もばらばらにするのに
私を壁《かべ》に突き当てては
「この女メたんぽぽが食えるか!」
白い露《つゆ》の出たたんぽぽを
男はさきさきと噛《か》みながら
お前が悪いからだと
銅貨の笞でいつも私を打擲する。
[#ここで字下げ終わり]
二人目の男の名前を魚谷一太郎と云って、「俺《おれ》の祖先は、渡《わた》り者かも知れない。魚を捕《と》ってカツカツ食って行ったのであろう」そういいながらも、貧乏《びんぼう》をして何日も飯が食えぬと私を叩き、米の代りにたんぽぽを茹《ゆ》でて食わせたと云うては殴《なぐ》り、「お前はど
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