うしてそう下品な女のくせが抜《ぬ》けないのだ。衿《えり》を背中までずっこかすのはどんな量見なんだ」と、そう云って打擲し、全く、毎日私の骨はガラガラと崩《くず》れて行きそうで打たれるためのデク[#「デク」に傍点]のような存在であった。
私はその男と二年ほど連れ添《そ》っていたけれど、肋骨《ろっこつ》を蹴《け》られてから、思いきって遠い街に逃《に》げて行ってしまった。街に出て骨が鳴らなくなってからも、時々私は手紙の中に壱円札《いちえんさつ》をいれてやっては、「殴らなければ一度位は会いに帰ってもよい」と云う意味の事を、その別れた男に書き送ってやっていた。すると別れた男からは、「お前が淫売《いんばい》をしたい故、衿に固練《かたねり》の白粉《おしろい》もつけたい故、美味《うま》いものもたらふく食べたい故、俺から去って行ったのであろう、俺は今日《きょう》で三日も飢《う》えている。この手紙が着く頃《ころ》は四日目だ、考えてみろ」――
この華《はな》やかな都会の片隅《かたすみ》に、四日も飯を食わぬ男がいる。働こうにも働かせてくれぬ社会にいつもペッペッと唾《つば》きを吐《は》き、罵《ののし》りわめい
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