、きっときつい目に会っていたと思うね」
私は骨つきの方の鰺をしゃぶりながら風呂屋《ふろや》の煙突《えんとつ》を見ていた。「どんなに叱られていたか」何と云う乱暴な聞き方であろう、私は背筋が熱くなるような思いを耐《た》えて、与一の顔を見上げた。与一はくずぬいて箸《はし》を嘗《な》めていた。私は胃の中に酢《す》が詰《つま》ったように、――瞼《まぶた》が腫《は》れ上って来た。
「どうして、今更そんな事を云うの、私を苛《いじ》めてみようと思うンでしょう、――ねえ、どんなに貧乏しても苛めないで下《くだ》さいよ、殴らないでよね、これ以上私達豊かになろうなんて見当もつかないけれど、これ以上に食えなくなる日は、私達の上に度々あるでしょうし、でも、貧乏するからと云って、私の体を打擲しないで下さい。もしも、どうしても殴ると云うのンなら、私は……またあなたから離れなければならないもの、それに、私は今度殴られたら、グラグラした右の肋骨の一本は見事に折れて、私は働けなくなってしまうでしょう」
「ホウ……そんなに前の男は君を殴っていたのかね」
「ええこのボロカス女メと云ってね」
「道理で君はよく寝言《ねごと》を云
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