あのように誇《ほこ》っていた長い睫《まつげ》も、抜けたようにささくれて、見るかげもない。
 紅《べに》もなければ白粉《おしろい》もない、裸のままの私に、大きい愛情をかけてくれる与一の思いやりを、私は、過去の二人の男達の中には探し得なかった。それに、子供の頃の母親の愛情なんかと云うものは、義父のつぎのもののようにさえ考えられ、私は長い間、孤独《こどく》のままにひねくれていたのだ。

 五番目の手紙には、「まだ、お前の手紙を手にしない。君は例の変な義理立てと云った風なものに溺《おぼ》れているのだろう。もう一二年もたったらそれがどんなに馬鹿らしかったかと解《わか》るだろうが、そんな古さは飛び越える決心をして欲しい。君は、僕に、なるべく悪い事を聞かすまい、弱味を見せまいとしているらしいが、そンな事は吹けば飛ぶような事だ。マア、とにかく困った習癖《しゅうへき》だと云っておこう。同封《どうふう》の金は、隊で貰ったのと、東京を出る時、旅費や宿料の残りだ。僕は壱銭もなくなった。だが生きるようなものは食っている。困らない。山は快晴だ」
 第六番目の手紙、「君は僕の心の中で、だんだん素直に成長して行く。手
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