二中隊召集兵、小松与一|宛《あて》と住所が通知してあった。
三番目の絵葉書は、高原の白樺《しらかば》が白く光って、大きい綿雲の浮《う》いた美しい写真であった。文面には、「今日は行軍で四里ばかり歩いた。田舎屋で葡萄《ぶどう》を食べて甘美《うま》かった。皆百姓は忙がしそうだ。歩いていると、呑気《のんき》なのは俺達ばかりのような気がして、何のために歩いているのか判らなくなって来る。こうしていても、気が気でないと云う男もいた。留守はうま[#「うま」に傍点]くやって行けそうか。知らせるがいい」こんな事が書いてあった。
私は徒爾《いたずら》な時間をつぶすために、与一の絵葉書や手紙を、何度となく読んでまぎらした。あの下駄はどう処分したであろうか、逞しい軍人靴をはいて、かえって、子供のように楽しんでいるかも知れない。出発の日の与一の侘《わび》しい姿を思うと、胸の中が焼けるように痛かった。
第四番目の手紙は、どうも俺は、始終お前に手紙を書いているようだ。お前は甘い奴と思うかも知れない。――遠く離《はな》れて食べる事に困らないと、君がどんな風に食べているンだろうと云う事が案ぜられるのだ。まだ一度も君
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