う人生の終りだよ、俺だったら自殺する」
「働かないとなると、生きていても仕様がないからね……」
与一が、山の聯隊《れんたい》へ出発した日は、空気が灰色になるほど風が激しかった。「まるで春のようだ、気持ちの悪い風だ」誰もそういいながら停車場に集った。
「石油コンロは消してあったかい?」
与一は、こんな事でもいうより仕方がないといった風に、私の顔を見て笑った。
奉公袋《ほうこうぶくろ》を提げて下駄《げた》をはいた姿は、まるで新聞屋の集金係りのようで、私はクックッと笑い出して、「火事になった方がいいわ」と、言葉を誤魔化した。
「一人で淋しかったら、診療所の娘でも来てもらうといい」
「大丈夫ですよ、一人の方が気楽でいいから……」
与一に対して、何となく肉親のような愛情が湧《わ》いた。かつての二人の男に感じなかった甘《あま》さが、妙に私を泪もろくして、私は固く二重|顎《あご》を結んで下を向いた。
「厭ンなっちゃう、まったく……」
私は甘いものの好きな与一のために、五銭のキャラメルと、バナナの房《ふさ》を新聞に包んで持たせてやった。
「どうせ今晩は宿屋へでも泊《とま》るンでしょう?」
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