に落ちついてもう一年になるけれど、海兵団のトロ押しが、とうとう義父の働く最後であったのかも知れない。
 暗雲《やみくも》にヒッパクした故郷からの手紙だ。
[#ここから2字下げ]
――それで、おまえが、なんとかなれば七円ほど、くめんをして、しきゅう、たのむ、おとっさんも、いたか、いたか、きってくれ、いいよんなはる。せきたんさんで、あらいよっとじゃが、びょういんにいったほうが、よかあんばいのごとある。
[#ここで字下げ終わり]
 私は夕飯の済んだ後、与一に故郷からの手紙を見せようと思った。与一は何か考えているのであろう、何となく淋しそうに窓に凭れて唄をうたっていた。その唄の節はひどく秋めいた、憂愁《ゆうしゅう》のこもったものであった。私は何度となく熱い茶を啜《すす》りながら、手紙を出す機会を狙《ねら》っていたが、与一はいつまでもその淋し気な唄を止めなかった。

     十一

 沈黙《だま》って故郷へは送金しよう、――私はそう思って毎日与一の額の繃帯を巻いてやった。
「ちょっとした怪我《けが》でも痛いンだから、これで腕《うで》や脚《あし》を切断するとなると、どんなでしょう?」
「それはも
前へ 次へ
全43ページ中35ページ目


小説の先頭へ
文字数選び直し
林 芙美子 の一覧に戻る
作家の選択に戻る
◆作家・作品検索◆
トップページ 登録 ご利用方法 ログイン
携帯用掲示板レンタル
携帯キャッシング