から、薄い小米のような白い花が咲いた。
壁のモジリアニも、ユトリオもディフィも、おそろしく退屈な色に褪《さ》めてしまって、私は、与一が毎朝出掛けて行くと、一日中呆んやり庭で暮らした。
人気のない部屋の空気と云うものはいつも坐《すわ》っている肩の上から人の手のように重くのしかかって来る。まして家具もなく、壁の多い部屋の中は、昼間でも退屈で淋しい。
青い空だ。
白米のような三ツ葉の花が、ぬるく揺《ゆ》れている。
「小母《おば》さんはどうして帯をしないのウ」
蛙の唄をうたった小里氏の男の子が、こまっしゃくれた首の曲げ方をして、私の腰のあたりを不思議そうに見ている。
「小母さんは帯をすると、頭が痛くなるからねえ」
「フン、――僕のお父《とう》ちゃんも頭が痛いの」
私は、青と黄で捻《ひね》ったしで[#「しで」に傍点]紐《ひも》で前を合わせていた。――ああ、疲れた紅《あか》いメリンスの帯はもうあの朝鮮人の屑屋の手から、どこかの子守女へでも渡っている事だろう。帯を売って五日目だ。もう今朝《けさ》は上野へ行く電車賃もないので、与一は栗色《くりいろ》の自分の靴《くつ》をさげて例の朴のところ
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