叱ってなんかいないよ、だから厭《いや》なんだ、君はひねくれ[#「ひねくれ」に傍点]ない方がいい。――僕が君に云ったのは貧乏人はあんまり物事をアイマイにするもンじゃないと云う事だ。遠慮なんか蹴飛ばしてハッキリと、誰にだって要求すればいいじゃないかッ! ヒクツな考えは自分を堕落《だらく》させるからね」
 米を洗っていると泪が溢れた。
 卑屈《ひくつ》になるなと云った男の言葉がどしん[#「どしん」に傍点]と胸にこたえてきて、いままでの貞女《ていじょ》のような私の虚勢《きょせい》が、ガラガラと惨《みじ》めに壊れて行った。
 与一はあらゆるものへ絶望を感じている今の状態から自分を引きずり上げるかのような、まるで、笞のようにピシピシした声で叫《さけ》んだ。
「今時、溺《おぼ》れるものが無ければ生きて行けないなんて、ゼイタクな気持ちは清算しなければいけないんだ。全く食えないんだから……」
「食わなくったって、溺れていた方がいいじゃないの……」
「君はいったい何日位飢える修養が積ンであるのかね、まさか一年も続くまい」

     八

 清朗な日が続いた。
 井戸端《いどばた》に植えておいた三ツ葉の根
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