びこっていて、敷居《しきい》の根元は蟻《あり》の巣《す》でぼろぼろに朽《く》ちていた。
「済みませんねえ。疲《つか》れていなかったら台所へ棚《たな》を一ツ吊《つる》して下さい」
「棚なんか明日にして飯にでもしないか」
「ええだけど何も棚らしいものがないから、どうにも取りつき場がないわ」
「眼が舞《ま》いそうだ。飯にしよう」
 与一が後ろ鉢巻《はちま》きを取りながら、台所へ炭箱を提《さ》げて来た。
 鮭が二切れで米が無い。
 それで、与一が隣りの部屋に去ると、私は暗がりの中に、割りそこなった鯉の地獄壺を尻尾の方から石でもってコツンコツンと割ってみた。
 脆《もろ》い土屑《つちくず》がボロボロ前掛けの上に壊《こわ》れて、膝《ひざ》の上に溢《あふ》れた銅貨は、かなりズシリと重みがあった。どれを見ても銅貨のようだ。私は一ツ一ツ五拾銭銀貨が一枚ぐらい混《ま》ざっていはしないかと、膝の上にこぼれた銭の縁を指で引掻いて見た。
 銅貨がちょうど二十枚で、拾銭の穴明き銭と五拾銭銀貨が一枚ずつ、私の胸はしばらくは子供のように動悸《どうき》が激しかった。
 抜《ぬ》き替えたこの一銭銅貨がみんな五拾銭銀貨であ
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