顔をチラと見るのでした。
夕方、由はひな子に連れられて、町に一軒しかない銭湯から帰つて来ると、銀の丈長を巻いて髪結のすきてから桃割れに結つて貰ひました。
「ほんによう似合ふぞな」
「女子よのウ‥‥」
由は鏡の中の変つた自分の姿を見ても別に愕いた風でもなく、髪が出来上ると、部屋の隅へ行つて固くなつてかしこまつてゐるのでした。手伝ひに来る女達は、由を見て、「どこの妓か思やアうどんやのあねさんか、ええのウ」とあいそを云つてくれるのでありました。それでも沈黙つてゐると、ひな子が由の肩を叩いて「少し笑ふもんぢやろで」と云ふのです。
由は、学校へ行つてゐる時のひな子を好きだと思ひました。夜、かうしたところで見るひな子は一瞥しただけの男へも、愛嬌をみせて、「好がんがのウ」と口癖に云ひ、屡々牝猫のやうな眼をしてみせるのでありました。
「よツしやん、料理場から徳利ヨ持つて来てな」
由は徳利の熱いのを持つて、ひな子の後へ続きますと、ひな子は振り返つて、「わしたちの先生も来とるん、手を握つて、放さんのんよ」と眉を顰めて見せるのでした。
広い座席には、もう酔ひのまはつた二三人の代議士とか云ふ男達が正
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