をしてゐる後姿は、軒から首だけ上に出てゐるやうに、由には大きなひとに見えました。ひな子は此おりくさんの養女の一人でしたが、「うちのお父さんは暢気ぢやア」と、おりくさんの事を「お父さん」と呼んでゐるやうなのです。由は此おりくさんのうちへ、出前でよくうどんを持つて行くのでしたが、おりくさんがゐると、きまつて一銭銅貨を煙草入れの叺から出して投げてくれるのでありました。
おりくさんについての町の世間話はもうまるで伝説みたいな存在になつてゐるのでせう、太ツ腹で、妾を二三人も持つて、それが皆仲良く助けあつて、一ツの大きな料理屋を営んでゐるのですから、小さい島の上では珍らしい事以上に、かへつて誇ででもある風にみんな話をしてをるのでした。
「荒神山へおりくさんが噴水をつくるちふがの」
「ほう、さうかの、いづれ公園にでもするんぢやろな」
「女子でもやりて[#「やりて」に傍点]よのウ‥‥」
そのおりくさんが或日、由[#「由」は底本では「山」]の奉公してゐるうどんやへのつそり入つて来て、色々な世間話の末、「一寸よツしやんを貸してくれんかの、今日は大阪から弁護士が二三人来るで、女子が足りんでのウ」と、由の
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