。
「でも、もうこれで出来上ったのだから、持って行こう……」
彼女は、出来上った着物を畳《たた》んで座蒲団《ざぶとん》の下に敷《し》いた。
「出来上ったンなら早く持っておいで、友情のない奴の品物なンぞ見るのも不愉快《ふゆかい》だ」
僕は一々彼女に向ってああしては悪い、こうしては悪いなどと云う事に草臥《くたび》れ始め、自分のキリキリした神経もこの頃《ごろ》では少しばかり持てあまし気味でいるのだ。
履歴書も四五十通以上は書いたろう、あらゆる友人を頼《たよ》って迷惑《めいわく》な手紙も随分書いたが、頼んだ友人達自身が何等《なんら》の職もなく弱っている者が多かった。
彼女は着物を風呂敷に包むと、悪戯《いたずら》ッ子らしく眼をクルクルさせて僕の両手を引っぱり、台所へ連れて行くのだ。「ねえ、私、ちぬ子さんにいいお土産《みやげ》を持って行こうと思うのよ」そう云って彼女が台所の流し場を指差したのを見ると、西洋種の紅い豆《まめ》の花や、束《たば》の大きい矢車草がぞっぷりと水につけられていた。
「おお綺麗《きれい》だなア……」
「綺麗でしょう……」
「どうしたンだい、こんなゼイタクな花束を?」
「
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