れそうな草がたくさんあるからと云うのだ。彼女の拡げた風呂敷の中には、ひずる[#「ひずる」に傍点]やたんぽぽ[#「たんぽぽ」に傍点]や、すいば[#「すいば」に傍点]のようなものまで這入っている。白い風呂敷と思ったのは、彼女のさらし[#「さらし」に傍点]の襦袢なのであった。「だから、僕は安心して貧乏が出来るんだね」とも口に出して云いたいほど、彼女は二十三歳にしては、ひどく世帯《しょたい》くさいのだ。
 夜は、これらの摘草を茹《ゆ》でて食卓《しょくたく》に並べた。色は水々しかったが、筋が歯にからんで、ひずる[#「ひずる」に傍点]の噛《か》み工合《ぐあい》などはまるで蒟蒻《こんにゃく》のようであった。

 墓場の向うの火葬場《かそうば》には、相変らず毎日人を焼く煙《けむり》がもくもくと埃《ほこり》色に空に舞いあがっている。――僕はもう職業を求めるために街へ出たり、履歴書など書く事は徒労だと思い始めた。僕が頭を下げて行った先々の人間達は、いわゆるフォイエルバッハの大邸宅《だいていたく》と名づけられるような、中では茅屋《ぼうおく》にある場合と違った考えを人達はしているものだ、で、全くもってムザンで
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